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ビーガンのよくある質問(FAQ)や議論のまとめ

ビーガンの話になるとよく出る質問や議論を以下にまとめる。それを踏まえてから議論をすれば同じ話を何度もしなくて済む。

 

はじめに

ビーガン、ヴィーガンveganなどいろいろな表記があるがここでは「ビーガン」の表記で統一する。ただし引用元によっては表記が異なる場合がありそれはそのまま掲載する。

本記事は「ビーガンFAQ - よくある質問と返答集」を参考にしているが、長くなりすぎないように整理している。

 

定義・前提

ビーガン:ビーガニズムを持つ人、実行する人

ビーガニズム:食品や衣服、その他の目的のために、動物に対するあらゆる搾取と残酷行為を可能で実践できる限り排除する生き方及び哲学

"Veganism is a philosophy and way of living which seeks to exclude—as far as is possible and practicable—all forms of exploitation of, and cruelty to, animals for food, clothing or any other purpose.  *1

 まず、この認識を合致させなければいかなる議論も無意味であり、すべての議論はここに立ち返って判断をする。

より簡潔な表現をすれば「なるべく他の動物を犠牲にせず、かつ自分を犠牲にしない範囲で生きる」という解釈ができる。

ビーガニズムの議論は「主義、思想」である倫理的な視点と、「アプローチ方法(手段)」である科学的、理論的な視点とに分けて行う必要がある。

 

主義、思想に対する議論

再掲となるが、「なるべく他の動物を犠牲にせず、かつ自分を犠牲にしない範囲で生きる」という考えを受け入れない人や賛同しない人は後述のアプローチ方法に関する議論は不要である。

しかし、普段は真剣に考えたことがない人でも、改めて考えると上記は広く賛同されるのではないかと考える。このような倫理的な話は様々な状況でも同様に存在する。

  • なるべくCO2を出さない方法があるならそれがよい
  • なるべくゴミを出さない方法があるならそれがよい
  • 世界で貧困、飢餓、虐待、差別がなくなるならそれがよい

ほかにもいろいろあるが、自分を犠牲にしない範囲であればこれらに賛同するという人が多数であると考える(またはそう願っている)。 

 

アプローチ方法に対する議論

ここ以降はFAQ(よくある質問)形式とするが、すべては冒頭の定義・前提に基づく。

Q1. ベジタリアニズム(菜食主義)と違うの?

菜食主義は、動機を問わず動物性のものを、完全にまたは部分的に食事から排除する主義である。一方、ビーガニズムは種差別への反対として、食事のみでなく、あらゆる形での動物の利用をボイコットする社会正義運動である。

動物性のものを摂取しないことが多いがそれ自体が目的ではない。たとえば、基本的に牛乳は摂取しないが、母乳は問題ない。母親の意思を無視して搾取して乳を搾り取っているわけではないため。

Q2. 植物は犠牲にしていいの? 

ビーガニズムは搾取される対象の感覚や感情を尊重する思想であり、命を主題としたものではないため、この時点で典型的な論理的誤謬(藁人形論法)である。また、「命はすべて平等であるから等しく扱うべき」、あるいは、命の平等さのみを考慮し「扱われる対象者の感覚や感情の応答を考慮する必要がない」、というのであれば、当然ホモ・サピエンスの命も平等であるため、ホモ・サピエンスの搾取も正当化されることになる。

Q3. でもライオンも肉食べてるけど?

この議論が有効なのは、あなたがライオンと同等の理性しか持ち合わせないか、あるいはライオンと同じように他に選択肢がない場合のみ。

Q4. 健康に悪いのでは?

栄養学的に問題ない。反論がある場合はこれら栄養士会に対して学術的に反論をする必要がある。よくネット上の記事や個人の感想を引用する者がいるが学術的には全く有効でない。

カナダ栄養士会の見解

Google翻訳)子供から10代、そして年配の大人まで、誰でもビーガン食に従うことができます。 妊娠中や授乳中の母親にとっても健康的です。 よく計画されたビーガン食は、食物繊維、ビタミン、抗酸化物質が豊富です。 さらに、飽和脂肪とコレステロールが少ないです。 この健康的な組み合わせは、慢性疾患からの保護に役立ちます。

ビーガンは、非ビーガンよりも心臓病、糖尿病、特定の種類の癌の発生率が低くなります。 ビーガンはまた、肉を食べる人や菜食主義者よりも血圧レベルが低く、太りすぎになる可能性が低くなります。

(原文)Anyone can follow a vegan diet – from children to teens to older adults. It’s even healthy for pregnant or nursing mothers. A well-planned vegan diet is high in fibre, vitamins and antioxidants. Plus, it’s low in saturated fat and cholesterol. This healthy combination helps protect against chronic diseases.

Vegans have lower rates of heart disease, diabetes and certain types of cancer than non-vegans. Vegans also have lower blood pressure levels than both meat-eaters and vegetarians and are less likely to be overweight. *2

 米国栄養士会の見解

Google翻訳)完全菜食主義者または完全菜食主義者の食事を含む適切に計画された菜食主義の食事は健康的で栄養的に適切であり、特定の病気の予防と治療に健康上の利益をもたらす可能性があるのはアメリカ栄養士協会の立場です。よく計画された菜食は、妊娠、授乳、乳児期、小児期、青年期を含むライフサイクルのすべての段階の個人、および運動選手に適しています。

(原文)It is the position of the American Dietetic Association that appropriately planned vegetarian diets, including total vegetarian or vegan diets, are healthful, nutritionally adequate, and may provide health benefits in the prevention and treatment of certain diseases. Well-planned vegetarian diets are appropriate for individuals during all stages of the life cycle, including pregnancy, lactation, infancy, childhood, and adolescence, and for athletes.  *3

英国栄養士協会の見解

(要約)英国栄養士協会は、CEOが署名した公式文書で、「よく計画されたビーガン食が妊娠中や授乳中も含め、子供から大人まであらゆる年齢の人々の健康的な生活をサポートできる」と断言しました。

1936年に設立された英国栄養士協会(BDA)は英国と北アイルランドの栄養士のための専門家協会および労働組合です。これは9,000人を超える会員を擁する、食品および栄養の専門家からなる国内最大の組織です。*4

Q5. 宗教じゃない?

あなたが宗教をどのように定義をしているか不明であるが、一般に「人間の力や自然の力を超えた存在を中心とする観念であり、また、その観念体系にもとづく教義、儀礼、施設、組織などをそなえた社会集団」のことである。*5

この定義に照らし合わせて判断をすればよい。いずれにせよ、宗教に該当してもしなくてもビーガニズムの主義・思想には関係がない。

Q6. 全員がビーガンになったら持続不能では?

畜産は土地、水質、大気汚染や熱帯雨林消失、それらに伴う気候変動など、あらゆる種類の環境破壊の主要な原因であり、増大する人口も考慮すれば、むしろ動物性食品の消費を減らすことが持続可能性を確保するための絶対条件となっている。*6

Q7. 動物を食べるのは自然なこと/昔から食べてきたからいいのでは?

自然であるということが、野生の動物の間で一般的に行われていることだというのなら、レイプや同種の殺害も承認されることになる。「昔から行われてきたから…」という理由による正当化の試みも同様。

現在のヒトゲノムを形成してきた進化の歴史上で、肉食によって人類の脳の発達が促進された時期があったということが事実だとしても、「よってヒトの個体は、肉を食べなければならない」という論理が成立していない。 

Q8. 作物の栽培でも動物が犠牲になるのでは?

なる。家畜も作物を食べ育てられるのであり、1kgの肉を生産するのに7kgから10kgほどの穀物が必要とされると言われている。また、家畜の育成のために広大な土地が開拓され、より多くの動物たちの生息地が破壊されている。よって、作物の栽培で動物が犠牲になることを心配するのであればビーガンになった方が良い。

Q9. ヒト以外の動物は種が違うのだから道徳的に配慮する必要はないのでは?

種の違いを理由に軽視することは、人種の違いを理由に軽視する人種差別や、性の違いを理由に軽視する性差別などと同様の構造を持つ差別であり、種差別と呼ばれる。種差別がヒトの道徳的配慮に含まれないのであれば、動物愛護管理法等の法律の策定や発想自体もされない。

たとえば、犬や猫が残虐な目にあっていると、悲哀、憎悪、不快のような感情を多くの人が示すことは自明であり、もしその感覚がない場合は「主義、思想に対する議論」の段階で話しは終了している。

Q10. 個人の自由では?

被害者となる第三者がいる以上、個人の自由として許容されない。彼らを第三者として考慮する必要がないと示さない限り、この個人の自由という主張は正当化されない。殺人は個人の自由というのと同じ構造である。

Q11. 感謝して食べているからいいのでは?

感謝して奴隷を所有したり感謝してレイプしたりすれば、被害者の苦しみが軽減されたり道徳的責任が回避されると考えるだろうか?感謝や供養をいくらしようが、被害者の苦しみには何の影響も及ぼさない。

Q12. 売られている肉はすでに殺された動物だから、食べても食べなくても同じでは?

動物製品の消費をボイコットしてそれを広めることによって、今後の動物の犠牲を減らし、動物の利用を根絶することを目指しているだけである。

Q13. ビーガンって草ばっか食べてるんでしょ?

いいえ。

Q14. ビーガンが増えたら畜産関係者が職を失うのでは?

既存の事業は成り立たなくなってくるだろう。人は畜産関係者を養うために肉を食べているわけではない。需要が変われば供給も変わる。

しかし、明日から、または来年から世界中の人々がビーガンになるということはありえない。人権問題同様、長い年月を要するだろう。

Q15. 肉や乳製品の代替品を食べるってことは、本当はやっぱ動物製品が食べたいんだろ?

食べたい人もいるだろうし、食べたくない人もいるだろう。それはどちらでもよい。 

Q16. 犠牲をゼロにすることはできないから、ビーガンになっても無駄では? 

ゼロにするのが絶対条件ではない。 

Q17. 我々が食べなければ、そもそも家畜は存在/存続することができないのでは?

そもそも人間の欲求のために生み出された産物である。何もしなければほかの動物同様、自然の食物連鎖に従う。

 

残る論点

以上までは誤認、誤謬によるため議論の余地はない。残る論点は以下のみとなる。

人権を尊重し差別しないようにするのと同様、動物の権利を尊重し差別しないようにするかどうか

欲求を満たすために人種差別や奴隷制度に賛同する人もいるだろう。また古代よりそれが多数派だったことは周知の事実であり、今のようにすべての人に人権が認めることが多数派になるのはここ100年200年というごく短い期間である。

ビーガニズムの論点はこの「人の差別主義と反差別主義」と全く同じ構図である。かつて人種差別主義が多数を占めていて人権を意識している人が少数派(非常識)だったのと同様、動物の権利を意識している人が少数派(非常識)なのが現状である。

このようなものには理論的な答えはなく、倫理の問題である。

一言でいうと、あなたは「差別主義を選択するか?それとも反差別主義を選択するか?」ということである。

 

おわりに

人権問題は今でもゼロではない*7。よって動物の権利問題もゼロにするのは困難である。ただし「ゼロにできないのであれば、何も考えなくてよい」ということにはならない。